初めての人工授精が終わり、生理予定日がくるまではそわそわしました。
生理予定日はこの日だけど、もともとの排卵予定日より早くに人工授精したしなあ。
いや、フライングして検査してうまく表示されないのは困るから絶対わかる日を待ってから……。
そんな考えをぐるぐる巡らせながら、今のこの症状は妊娠初期のものなんじゃないかとかあれこれ気にしてはネットで検索しました。
生理前と妊娠初期は結構症状でかぶるものも多く、やきもきさせられました。
そうして、生理がこないままフライングには決してならない日に検査薬を試しました。
そうして、くっきりと見えた青の線。
陽性の印です。
待ち望んでいたものでした。
病院に通うまでとタイミングをはかって頂いた時期をあわせると決して短い期間ではありませんでしたが、それでも体外受精をしたり何年も授からないひともたくさんいる中、私は恵まれているに違いありません。
よし、と喜ぶも、素直に喜び一色とはなりませんでした。
前回の妊娠は、妊娠確定後心拍が確認できず初期流産となったのです。
今回もそうなったらどうしよう。不安が拭いきれませんでした。
夫に妊娠判定が出たことを伝えると、嬉しそうにはしつつも「そうか、良かった」という感じであっさりめの反応。
上の子のときはもっとがっつりと喜んでいたので、不妊治療を経て「漸く」というしみじみとした感情もあったでしょうし、なにより同じく流産のことが頭をよぎったのでしょう。
優しい夫です。
後日病院へ。
検査薬で陽性だったと伝えていたので、先生が「よし、早速みましょう!」と頼もしい声で迎えて下さいました。
いつもの内診台に乗り、器具が入ります。
お馴染みの画面を見つめます。
すると、不妊治療中に何度も見た卵胞のような丸が見えます。
「おお!おめでとうございます!心拍もありますね!」
カーテンの向こうから、先生の明るい声が聞こえます。
普段は真顔で歯に衣着せぬ物言いをする先生。
妊娠の影響で痔になったときも、普通の音量で「痔ですね、薬出しましょ!」と言ってしまうような先生。
その先生が手放しで楽しそうで嬉しそうな声を出してらっしゃるのです。
「こうやってみてきたひとが無事妊娠できるとやっぱり嬉しいですねぇ。」
同じくカーテンの向こうの看護師さんも「ね」と笑ってらっしゃるのが伝わります。
流産のときの処置も、この先生がされていました。
流産が確定したとき。
病院を出て綺麗な月をみながら涙を流したとき。
処置の前のお別れの時間。
処置のあと下着にもべとりと付いた残酷な血。
処置が終わって「眠れそう?」と聞かれたとき。
しまっていた思い出がふわりとよみがえります。
画面のなかの赤ちゃんはただの丸でしたが、しっかりと生きてくれていました。
じんわりじんわりと感動がやってきます。
今度は大丈夫だった。
やっと。
内診台から降りて先生と向き合い、改めて祝福を受けました。
そして、受け取ったエコー写真には「順調!」と手書きのメモが記されていました。
そのひとことが、まだ少し残るこれからの流産への不安を消してくれました。
クリスマスが過ぎて年の瀬を感じる頃。
前回流産の処置をしたクリスマスから2年が過ぎた日でした。